ぼくのヒーローR2 第22話 やさしいせかい


C.C.を影武者とし、黒の騎士団は再び活動を活性化させた。
その甲斐もあり、テロリストグループではなく弱者を守る正義の味方として認識され、人々の支持を集めていった。まさかそのトップに居るのが幼い子供だとは誰も気づかなかった。
ユーフェミアは、今までのお飾りという呼び名からは想像できないほど精力的に動きまわり、ブリタニア人だけではなくイレブンにとってもより良い国にしようと、独創的な改革を次々と行っていった。彼女の政策は弱肉強食を国是とするブリタニアとは相反するものだったが、目に見えるほどの成果を出していったため、皇帝も他の皇族も口出しすることができなかった。
相変わらずテロが活発なエリア11ではあったが、この国最大のテロ組織黒の騎士団は、弱者に優しいユーフェミアの治世を邪魔することなく、まるで協力しあうかのように動き回り、国を安定させていった。 やがて、人々からは軍務はコーネリア総督、政務はユーフェミア副総督に任せれば国は安泰だと言われるようになった。

そこまでの基盤を整えるまでにかかった時間は、ルルーシュたちが幼児化してからたった1年ほど。ルルーシュの策があったとは言え、最初の頃に比べ為政者としての自覚を持ち、思慮深く、相手を思いやった優しさというものを身に着け成長したユーフェミアをルルーシュが手放しで褒めるほどで、ナナリーに嫉妬心を抱かせたりもした。
ルルーシュ達が望む『ブリタニアの新皇帝の姿』が見え始めた頃、世界は新たな動きを見せ始めた。世界各国で、同時多発テロが起きたのだ。
それらはルルーシュの策ではなく、だがあまりにもタイミングがよすぎる各国の動きに、恐らく裏で手を引いているのはシュナイゼルだろうとルルーシュは判断した。暴動が起きていないのは、優しい政治を心がけたエリア11だけ。各エリアでの暴動に、ブリタニア軍はそれらを抑えこむのにやっとの状態で、シュナイゼルが作り出した好機にルルーシュは乗り、ブリタニアへ乗り込んだのだが・・・。



これは暴動が起きる数日前のことである。

作戦を次の段階へと進めるため、ユーフェミアはコーネリアに自分の考えを、思いを打ち明けていた。

「私はお父様の考えを、弱者を虐げる国是を否定します。ですから皇帝であるお父様を討ち、99代皇帝となり平和な世界を作ります。お姉さま、私の敵となるか、味方となるか今ここで選んでください」

父である皇帝を討ち、皇位継承権争いに勝ち、皇帝となる。
妹の言葉に、コーネリアは、我が耳を疑った。
今まで自分の後ろに隠れていた妹は、自らの意志で進むべき道を選んだのだ。それはとてつもなく険しい道程だった。なにせブリタニアの考えを完全に否定し、侵略戦争を集結させ、戦争のない世界を作り出す道を進むというのだ。
だが、お前には無理だとはいえない。
この短期間にユーフェミアは目を見張るほど成長し、このエリア11でブリタニアに利益をもたらしながらもイレブンに支持される政策を打ち出しているのだから。なるほど、全ては皇帝となり平和な世界を作るために努力したのだと理解した

「ユーフェミアが・・・皇帝になるだと・・・ああ、それはなんて素晴らしい案なのだ!!ユーフェミア、お前には世界の頂点である皇帝の椅子こそが相応しい!わかった、お前に害をなそうとする愚か者たちは、私が全て討滅してくれる!!」

人々を従える女帝・ユーフェミアの姿が目に浮かび、シスコン魂に火がつきオールハイルブリタニア!オールハイルユーフェミア!とイキイキとした笑顔で叫んだ。


軍神とも言われているコーネリアが味方となった。
これは予定通り。
次にすべきことは、クーデター。
次の手を打つ準備に入った時、シュナイゼルが手を回した暴動が起きたのだ。こちらの動きを読み、次に何を行うかわかった上で起こしたのだと知り、ルルーシュとしては苛立ったが、ゼロとしては手間が省けたと次の行動に移った。

ゼロ達が、ブリタニアへ攻め込む準備を始めたその時、ブリタニア皇帝謁見の間で事件が起きていた。それはシュナイゼルとコーネリアによる奇襲、クーデターだった。
権力を持つシスコンとブラコンの行動力は凄まじく、ゼロは大きく出遅れていたのだ。ラウンズは各国のテロ鎮圧に駆りだされ、宮殿にはナイトオブワンとナイトオブトゥエルブ、そしてインペリアルガードだけだったため、予想以上にあっさりと皇帝を抑えることが出来た。C.C.から得た情報で、シャルルは強力な暗示を使うと聞いていたため、半信半疑ではあったが万全な体制で挑んだシュナイゼルは、兵士全員に特殊加工のサングラスを身につけさせ、捕らえた皇帝の両目にも拘束具を取り付けた。
そのため、強力な力を持つ皇帝のギアス自身を守る役に立たずに終わった。

黒の騎士団が動けば、ルルーシュが父親を殺すことになってしまう。
ユーフェミアが動けば、ユーフェミアが。
そのような辛い目にあわせる訳にはいかない、お前達のために私達が泥をかぶろうと、喜々として二人は父親の目を封じを牢屋に放り込んだ。
そしてコーネリアはブリタニアの謁見の間で、ユーフェミアが99代皇帝となることを宣言し、シュナイゼルが同意を示し、エリア11でのユーフェミアの治世を聞いていたオデュッセウスまで支持したことで、ユーフェミアの即位が決定した。

その様子を、ユーフェミアは呆然となりながら見つめていた。
トウキョウ政庁の、執務室で。
ゼロがこれからブリタニアに乗り込むと聞いて、無事に本懐を遂げられるようにと祈っていたらこれである。

ルルーシュが7年の間胸に秘めていた思いも、今までコツコツとユーフェミアとルルーシュが積み上げてきたことも全て無駄になった瞬間だった。
シュナイゼルとコーネリアとしては、二人の手を汚させたくなかったから、密かに連絡を取り合い愛する弟と妹のために動いたのだろう。
それは二人の善意。
ユーフェミア達の努力も、思いも、計画も全て無視した善意。
怒りを向けるべき人間はその地位を剥奪され、兄と姉の手で最高の位を与えられた。達成感など欠片もなく、すべてが無駄になったことに只々虚しくなるばかり。

「これが、相手の気持ちを無視し、力のある者が施す一方的な善意なのですね」

これが、今まで自分が行ってきたもの。
改革を進め、ブリタニア本国に済むブリタニア人にも弱肉強食の国是を否定させ、国を挙げてのクーデターを起こす予定だったが、全て無駄に。私たちの努力が、無駄になった。これは確かに兄と姉の善意ではあるが、・・・それを素直に喜べない。
そしてあのような形ででも宣言された以上・・・「ユーフェミアが人々を率いて、ゼロとともに皇帝を討ち、新たな皇帝になると宣言する」という形は取れなくなり、「力のある皇子と皇女の用意した玉座に座るお飾り」というイメージから逃げられなくなった。

この可能性は・・・考えていなかった。
だが、結果が出てから思えば、ありえた話だったのだ。
猪突猛進なユーフェミア。
一人でブリタニアに喧嘩を売るルルーシュ。
その兄と姉なのだ。
上位皇族としての権力を持つシスコン・ブラコンの行動力の恐ろしさにC.C.とスザクが頭を抱え、俺が討つつもりだったのにとが打ちひしがれたルルーシュは、努力を無駄にされ落ち込んでいたユーフェミアと合流し、ブリタニアへと移動した。


未だ騒然とする謁見の間に姿を現したユーフェミア達に、シュナイゼルとコーネリアは驚いた。全て落ち着いてから迎えに行くつもりだったのに、なんで安全なエリア11から出てきたのだと冷や汗を流した。
だが、彼ら以上に驚いたのは、見知らぬ人物だった。

「な、なんだこれは!?こんなはずが・・・おまえか!子供に戻したのに、それでも僕達の邪魔をするのか、この呪われた皇子が!」

謁見の間にあった隠し通路から姿を現したのは、長い髪の10歳ぐらいの少年だった。

「V.V.・・・お前が、幼児化の原因か」

帽子とかつらをかぶり、その幼さには不釣り合いな黒いサングラスをかけた幼子を腕に抱いたC.C.は静かに言った。
幼児化の原因。
ルルーシュを、幼くした犯人

スザクは素早く動き、隠し通路へ逃げ込もうとしたV.V.を即座に捕縛した。
くるくるキックでの一撃だ。
幼い体は簡単に吹き飛び、気を失った。
やり過ぎだと周りは焦っていたが、C.C.に殺すつもりで行かなければ、全員やられると言われたため、手加減などしなかった。・・・万が一殺してしまったとしても、その罪は背負うつもりだった。

隠し通路の奥には、黄昏の間への通路が有り、C.C.の導きでそこから中華連邦にあるギアス嚮団施設を制圧。バトレー将軍を保護し、研究材料となっていたジェレミアも保護した。
バトレーはクーデターで皇帝がユーフェミアとなったことを知ると、慈愛の姫と言われていた彼女なら・・と、クロヴィスが行なっていた人体実験のことを打ち明けた。その実験体だったC.C.とV.V.が不老不死だったことも、ここで明かされた。
そして、ギアスの研究体だった者とV.V.がエリア11の黒の騎士団の元へ行き、彼らにギアスを掛け、幼児化させたこともここで証明された。そのギアスを持っていたものは、度重なる実験でエリア11に向かった時にはすでに虫の息で、ルルーシュ達にギアスを使用した後息絶えたのだという。

調整中で、精神面に多くの問題が会ったジェレミアだったが、ギアスを無効化させるギアスを発現させていることに気づいたC.C.は、呆けて会話さえまともに出来ないジェレミアを皇帝となったユーフェミアと謁見の間であわせた。

「ジェレミア・ゴッドバルト。私の言葉がわかりますか」
「・・・おはようございました、皇女殿下」

定まらない視線でジェレミアは言った。
会話は成立していると判断したユーフェミアは命じた。

「ユーフェミア・リ・ブリタニの名において命じさせて頂きます。ジェレミア・ゴッドバルト、貴方の持つその左目の力で、ここにいるものに掛けられた力を解除しなさい」

ユーフェミアの示す先には、大きなローブを被った幼い子供。
その瞬間、謁見の間は青い光に包まれた。


小さな幼子が、大人のローブを着て遊んでいる。そんな感じだったのだが、青い光に包まれた途端、そのローブの中の質量は変化し、あっという間に幼子はそのローブに合う背丈にまで成長した。

「なるほど、これは便利だな」

その声も、もう幼子のものではない。C.C.はにやりと口角を上げ、不安を感じていたユーフェミアはほっと安堵の息を吐いた。 別室に待機させていた子どもたちのギアスも解除され、彼らは日本の名前を取り戻した母国へと戻っていった。
今、日本を統治しているのは黒の騎士団のゼロ。後々皇カグヤに明け渡す予定だが、開放されたばかりの日本は、まだ若い彼女に渡すにはいろいろと問題があったため、ゼロが下地を整えていた。
黒の騎士団は日本の英雄だった。
ユーフェミアがゼロと協力関係にあり、ゼロの強者は弱者を守るものだという考え方に感銘を受け、父であるシャルル皇帝を討つ選択をしたのだと世界各地に知れ渡り、ゼロと黒の騎士団は侵略戦争を集結させた英雄と、稀代の革命家となった。
扇達幼児化した面々は、自分たちはその幹部で世界を救った英雄なのだという顔で帰国したが、突然姿を消した彼らのことを団員は良く思っておらず、実際に改革を起こした時にはいなかったため、彼らは黒の騎士団とは認められなかった。
・・・当然、ルルーシュは彼らに幼児化した時の記憶も全て忘れるよう命じている。
同じく幼児化していたカレンは、扇達の態度には腹を立てていたこともあり、擁護することなく素知らぬ顔でゼロの横に立ち続けた。
スザクはナイトオブワンとなったが、平和と正義のの象徴ゼロが暗殺されないようにと、カレンと共に日本でゼロの護衛をしていた。
C.C.は、シュナイゼルが管理することになったギアス嚮団で、ギアスとコードを消滅させる研究のため、嚮団と日本を往復する生活をはじめた。
バトレー将軍は、この研究のトップとして、今も嚮団に身をおいている。

こうして世界は、平和への道を歩み始めたのである。
皆が夢見た、優しい世界。
その世界を実現するためには。

「お兄さま、お姉さま。やはり皇帝にはルルーシュが相応しいともうのです」

日本が落ち着けば、ルルーシュはゼロの仮面を捨てるだろう。
そうなれば、ナナリーと共に戻ってくる事も可能だ。

「たしかに、そうだね」

いくら勉強をしたと言っても、やはり付け焼き刃。
ユーフェミアではいろいろと問題があり、その尻拭いをシュナイゼルとコーネリア、そしてオデュッセウスが中心となって行なっていた。

「では、ルルーシュに気づかれないよう下準備をしなければな」
「ナナリーを引き込むのは、早いほうがいいと思うんです」
「そうだね、これがルルーシュの望む世界への近道だろう」

99代皇帝
ユーフェミア・リ・ブリタニア

宰相
シュナイゼル・エル・ブリタニア

統合参謀本部議長
コーネリア・リ・ブリタニア

国のトップに立った3人の皇族は、くすりと笑った。


21話